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アラン・シリトー 『土曜の夜と日曜の朝』

土曜の夜と日曜の朝


「人生はきびしい、へこたれるもんか」自転車工場の若い工員アーサーは、父親から上司、政治家に至るまで権力と名が付くものが大嫌い。浴びるように酒を飲み、人妻を誘惑し、気に入らないヤツに喧嘩を売る日々を送っている・・・・・・・・。“悪漢物語”の形式を借りて労働者の青春を生き生きと描き、第二次世界大戦後のイギリス文学界にショックを与えたシリトーのデビュー作。   (1979.12.25   新潮文庫)


シリトーというとまずは『長距離走者の孤独』のような気がしますが(苦笑)、デビュー作ということで『土曜の夜と日曜の朝』をまずは読むことにしましたー^^

イギリスというとカースト制度のように明確な階級制度はなけれど、伝統的なというか習慣的な(?)階級の線引きはそれなりに出ている社会である。貴族階級、中産階級、労働者階級を扱った小説も多々あるが、本書の著者は労働者階級出身のシリトーが書いた労働者階級の生活を描いた本なのだ。ピカレスク(悪漢物語)の形式で書かれているが、主人公のアーサーは犯罪者というわけでもない。むしろ逆にちゃんと仕事もこなすしやるべきことはやってる20代の若者なのである。だが、アーサーは若者特有のフラストレーションをかかえており、政府、上司、父親など権力という名のつくものはすべて嫌っていて、社会批判的、諷刺的性格を抱えた小説として描かれている。

月曜から金曜まで肉体を酷使しそれで得た賃金を金曜の夜飲み屋で散財、人妻を誑かし気に入らないやつには喧嘩を吹っかける。こういう労働者の日常の描写がいかにも英国の匂いを漂わせているが、作家が労働階級出身であり内容も労働階級の生活を描いているとことでなかなか例がない作品だろう。英国の伝統ある気品漂う雰囲気を持つ作品も好んで読むが、本書のようなバックストリートを描いて醸しだす英国の雰囲気もまた英国らしくて好きだ。こういう作品は一様に荒んだ空気が色濃いが、それはアーサーのような人物が根っからの悪漢だからではなく、労働階級の社会への不満や政府の欺瞞、そういう想いの反動の振る舞いが荒みを色濃くさせている実にアナーキーな作品。どの時代でも社会というものが形成されている限り抱えてしまう問題であり、時事的なもの以外はいつまでたっても色褪せることがない内容である。若者の振る舞いは違えど社会に対して抱く不信感は英国でも日本でも同じなようだった。

また本書は二部構成となっており、一部は「土曜の夜」で二部が「日曜日の朝」となっている。タイトルに沿うような章のタイトルとなっているが、このタイトルの付け方は秀逸でセンスがよい。この一部と二部が何を対比したり土曜と日曜でどう描いているのかを読み比べてみても面白く読めるだろう。

だが、別段ピカレスク小説として読む必要はない。主人公アーサーはそれなりに荒れた生活をしてはいるが、仕事もちゃんとし身だしなみ(衣服)には飲み代以上のお金をかけるし、子供には優しいし、母親おもいでもある。気に食わない人物への振る舞いは悪いが、どこか憎めない人物像となっている。もしかしたら読書上手な方はキャラ読みすらできるんじゃないかと思えるほどキャラが立っている(笑)のでそういう読み方もできるかも知れない。




3.7 なむなむ!



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2011-08-03(Wed)
 

『シャイン』

シャイン2


実在するオーストラリア出身の天才ピアニスト、デビッド・ヘルフゴットが、さまざまな苦難を乗り越え演奏家として再起するまでを描いた感動ドラマ。主演のジェフリー・ラッシュは、今作でアカデミー主演男優賞を受賞。


オーストラリアに実在するピアニスト〔デイヴィッド・ヘルフゴット〕の半生を描いて映画化したもの。有名な作品なので観てる方も多いでしょうが、僕は正直今まであまり食指が動かなかった(苦笑)だが、クラシックを猛牛のように一直線に聴き始めてから俄然この作品が魅力的に映りとうとう観るにいたったのでござい。

ヘルフゴットという人物は本物のピアニストで今でも演奏をしているようだ。だが、この作品に描かれるように一度は音楽界から消えてしまった人物でもある。その経緯も本作には描かれていて、重要な要素ともなっているのだが、この人はある日精神を病んでしまうのだ。それはここで描かれていたヘルフゴットの父親の重圧などが主な原因のようだが、表面化したのはラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏会で弾き終わった途端倒れてしまう箇所にある。そんなドラマチックなというか絵に描いたようなタイミングで倒れてしまうのはいかにもドラマ的だが、〔神童〕と幼少期から言われていたヘルフゴットのキーは父親であり、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番ということが本作の前半部で示唆されているので、あの倒れてしまうシーンは「遂に3番を弾ききった!」と思うと同時に、ああなってしまうのも納得させられてしまう悲しいシーンでもあるのだ。

しかし、そこからいろいろな経緯を経てワインバーで弾き始めるのだ。神童と呼ばれたピアニストがどの街中にもあるワインバーで、客の為だけに弾くのである。なんて贅沢なワインバーであろうか(笑)そしてヘルフゴットは音楽会にもカムバックするにいたるところも感動的だし、DVDのジャケットにあるこのシーンは演奏会などとは対照的になんのプレッシャーもない自由なヘルフゴットの姿を見せてくれているようで心温まる。「この人から音楽をとっちゃいけないよね」とも。この映画を観ているとたぶん誰もがこの人物を愛してしまう、そんな人物として描かれていて好感を持てる映画なのは間違いない。父親もああいう押し付けは駄目だとは思うが、憎める人物ではなかった。だってあそこには確かに愛があるように受け取れたし、ヘルフゴットがカムバックしたときもちゃんと逢いに来るのだから。ただ、父親自身もその父親から受けた影響から、愛情の屈折度が過ぎてしまっただけだろう。ただ、この父親がもっと違った人物だったら、ヘルフゴットのピアニストとしての道程がどうなっていただろうかと思うと残念でならないが。

いろいろ書いたが、自分としては映画やストーリーとして観るだけでなく、音楽・ピアニストとしての面で観る姿勢も大きかったと思う。ミュージカル映画とはちと違うので「映画の音楽会」とでもいいましょうか(笑)、当たり前だけどそれほど音楽が効果的にしかも感動的に流れてくる映画なのだ。ラフマの3番はもちろん、コルサルフ「熊蜂の飛行」やショパン「英雄ポロネーズ」などの挿入曲もシーンごとに効果を発揮していた。

でもやはりなんといってもラフマの3番でしょう^^ヘルフゴットは父親の教育(刷り込み?)もありラフマ3番を弾こうとするのだが、この3番がとっても曲者でピアノ曲でも一番の難曲とまで言われるような曲なのだ。この作曲者ラフマニノフ自身が名ピアニストであった為、しかもラフマニノフは大柄で手がとてつもなく大きかったらしく1オクターヴの和音の嵐らしいのだ(苦笑)しかも「片手に10本の指があると思って弾け」と作中で言ってるくらい早い超絶技巧ぶり。ヘルフゴットにとってはちょっとチャレンジする時期が早すぎたのかも知れない。そんなラフマ3番だが、僕もCDを1枚だけだが持っていて、それが↓のCD。

アルゲリッチ



(P)アルゲリッチ/シャイー指揮のラフマ3番。これを聴いて見ても超難曲というのもわかるし、3番の演奏を残しているのもこのアルゲリッチやホロヴィッツ、アシュケナージ、キーシン、ギーゼキング、ギレリスなどなど名ピアニストと呼ばれる人ばかりなのだから難しさは折り紙付きだ。しかも僕が大好きなピアニストであるルービンシュタインは3番をどうやら挫折してるらしいのだ(苦笑)同じところで何度も間違えた為に録音を断念したらしいが、一度聴いてみたかったなぁ。。。でもピアノも技巧だけがいい演奏じゃないのである。確かにこのアルゲリッチの3番は男勝りの打鍵が迫力あるし、和音連打も見事だと思う。だけど、ちゃんと聴くとアルゲリッチのピアノに指揮者/オケがたじたじな印象を受ける^^;いい意味にとるとアルゲリッチのピアノは牽引してる感じだが、悪く取ると自己中なピアノ(笑)ヒントじゃじゃ馬なんだなぁ。アルゲリッチは(苦笑)で、技巧の話だが、並録されているチャイコの1番をルービンシュタインと聴き比べると良くわかる。

ルービンシュタイン



ルービンシュタインのチャイコの1番は叙情豊かで洗練されていて、コクがあってこんなに感情豊かにピアノを唄わせる人はルービンシュタインだけだと思わせる名演奏だが、アルゲリッチのは聞き比べると突っ走りすぎだし早すぎる感じもしちゃうのだ。まぁ好みの問題といえばなんでもそうなっちゃうが、ルービンシュタインの演奏はルービンシュタインしかできないが、アルゲリッチの演奏は技巧があればみな大差なくできちゃう演奏のような気がするので、上手けりゃいいってもんじゃないなと(笑)

あまり関係ない話は置いておいて(苦笑)、本作の主人公ヘルフゴットは実際にラフマの3番をCDで出してるのである↓


ヘルフゴット


難があるとかユニークな演奏だとか、賛否両論ある演奏のようだけど、実際に聴いたことがないので僕はなんとも言えない。が、ヘルフゴットの人生を知った今では、その演奏がどうなっているのか聴きたくてたまらない。そのうち絶対買って聴こうと思ってます^^あっ、それとラフマの3番は作曲者兼ピアニストでもあるラフマニノフの演奏もCD化されてる。録音状態はあまりよくないようだが、作り手自身の解釈はぜひとも押さえておきたい。聴きたいCDがどんどん増える(笑)


監督 : スコット・ヒックス
出演 : ジェフリー・ラッシュ  ノラ・テイラー  アーミン・ミューラー=スタール




4.0 なむなむ!



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2011-07-30(Sat)
 

島田雅彦 『悪貨』

悪貨


ある日、ホームレスが大金を拾う。だが、その金は偽札だった! 捜査にあたった日笠警部が事件解決のために招喚したのが、偽札捜査のスペシャリスト・フクロウ。 一方、「美人すぎる刑事」エリカは、国際的金融犯罪を取り締まるため、マネー・ロンダリングの拠点となる宝石商・通称「銭洗い弁天」に潜入捜査をすることになった。そこで捜査線上に浮かび上がってきたのが、グローバルな資本主義を超える社会を目指す共同体「彼岸コミューン」で育ち、今や巨額の資金を操る野々宮という男だった。 最後に勝利するのは、金か、理想か、正義か、悪か? ハイスピードで展開する「愛とお金の物語」   (2010.6.21  講談社)


島田雅彦さんの作品は本書がファーストコンタクトです。あまり縁がない作家さんでしたが、このタイトルに惹かれ手にとってしまいました。経済の興味がある上に〔貨幣〕、それも〔悪貨〕ですから見逃せませんね^^

まず初めに一人のホームレスが朝ベンチで起きると足元に現金100万円入った封筒が置いてあることに気づく。それを天からの恵みだといいホームレスは衣服を新調し身だしなみを整え食事をするのだが、あろうことか引ったくりにあってしまい所持金はポケットにある4360円となってしまう。そのホームレスは故郷にいる自分の子供にお菓子などをつめ郵便で送り、手元に残ったのは100円ライター一つ。さぁこのホームレスはどうしたのか?こういう場面から始まるのだが、この場面からしてもう〔お金〕(マネー)というものの正体を暗示しているのである。その一万円札の諭吉がいいたかったのは「カネは人の上に人を造り、人の下に人を造る」と。

その引っ手繰られた100万円の残りも「紙幣」というお金なので、これまた人から人へと流れていくのであるが、これがそもそも〔悪貨〕なのである。もちろん使ってる本人にはそんな認識は全くないが、そのマネーを掴んだ人々に災いを齎してゆく。タイトルが悪貨なので作者はずっとこの調子でマネーの危うさを提示しながら物語を進行していくのは言うまでもない。他にもマネーロンダリング(資金浄化)や日本の現状を揶揄なども盛り込んではいるが、やはり作者が〔貨幣〕というものを主役にした目の付け所が素晴らしい。逆に貨幣を扱った小説というものも、過去にいくつもあるのはある。が、今も昔も〔貨幣〕というものの問題はずっと変わらずあり続けているということなのだ。ゲゼル、ポランニー、トルストイ、エンデなどなど、経済学者が理論を組み立てようと、作家が研究し提言しようと変わってないという怖さ。やはり〔貨幣〕は変わらないしこれからも変われないと思うと、寒気がしてくるのは僕だけなのだろうか。これを読んで「怖い」という感情の一つも浮かんでこなければ、危機感が薄いのかも知れない。

未読の方の為に祖筋はあまり言わないでおくが、島田雅彦の言いたいことは概ねこうだ。「現行の貨幣制度は危ないよ、そのうち破綻するよ」ということ。lこれが〔貨幣〕を研究してる人たちの総意でもあるだろうし、グローバル資本主義のつけだし、ゆるぎない真実だろう。本書はこの題材たちからすると作品のテンションは少し軽い気もするし、主人公のラヴロマンスなんて特に必要ない気がする(まぁ小説なのでしょうがないのかも)。粗も探せば出てくる(ご都合主義な抜け穴など)。でも地域通貨「アガペー」が出てきたり、本書レベルは大げさだが中国の土地買占めなどの危険性を示したりと目の付け所はやはり鋭い作家だ。こういう作品が売れるような国はやはり国民の意識は政治・経済に限らず高いんだろうし、手に取る人が多ければ多いほど安心する。

タイトルで敬遠する人も多いかもしれないが、小説として読むには容易に読了できるし理解もできる。インフレーション、スタグフレーション、ハイパーインフレ、マネーロンダリング辺りの用語が理解できてれば躓くところはどこにもない。理解できてなくてもちょいとググってWikiで調べたらすぐに理解できる言葉だ。あとは読めば小説的な好みだけ。僕は小説的には軽く感じたが、それはいくつかの経済学の本や貨幣の本を読んだから、そういう面に対する軽さを感じてしまったんだと思う。この作品のテーマは大人の一般教養として知っておいたほうがいいと思うしエンタメとしても読めるので、興味がなくても一度読んで見るのもいいかも知れない。ちなみに本書には「理論的には使える偽札」が封入されている。それを見る為に手に取るのも初めの一歩になるでしょう(笑)




3.6 なむなむ!




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2011-07-23(Sat)
 
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Author:チルネコ
本のジャンルは小説〜経済本までと興味を持てばなんでも嗜みますが、本格推理とセンス・オブ・ワンダーなものを特に好みます。何かお薦め本があればご指南ください。リンク・コメント・TBも大歓迎ですのでどうぞよしなに^^

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