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中山七里 『連続殺人鬼カエル男』

連続殺人鬼カエル男



口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。   (2011.2.18  宝島社 刊)

第八回『このミステリーがすごい!』で大賞を獲った『さよなら、ドビュッシー』の著者・中山七里の作品であるが、この『連続殺人鬼カエル男』もまた第八回このミス!に応募した作品だ。しかも驚くなかれ!同じ著者の違う2作品が大賞候補まで残ったのは初めてなのである。より大衆受けするということで『さよなら、ドビュッシー』が受賞したようだが、全くタイプの異なる『連続殺人鬼カエル男』を読みたいという読者の声が多かったらしく、文庫で出版されるに至ったという。この経緯だけでも作者の新人離れした実力をうかがい知れるが、『連続殺人鬼カエル男』を読了後もそれは変わることがなかったと始めに述べておきたい。

タイトルの付け方や装丁のナイフを持って佇むカエルなどから、少しチープでユーモア炸裂ファルス満載の類かと思ってしまったがなんのその(一瞬バカミスかな?とも思った)。装丁買いしたらまず期待を裏切られてしまうような、残酷残虐暴力的極まりない内容となっている。それはのっけからその危ないテンションで、新聞配達人がマンションで口にフックを掛けられた女性の死体を発見するところから始まるから、ページを捲って早々に寒気がしてくるだろう。だがこれも単なる事件の一つにすぎず次々と無残な死体や暴力的で目を背けたくなる描写などが矢継ぎ早に繰り出されてくる。自分のモラルに大風呂敷を被されて盗まれそうな感覚に陥る感じすらした。

いくつか殺人があって死体の描写があるのだが、それが一つ一つなかなかにグロテスクでいちいち惨たらしい。これは作者の描写が酷さを文字へと抉り出すのが上手いからなんだろうが、圧巻はカエル男と○○○の格闘シーンである。ここが本書の最大の見所といってもいいくらい凄まじく壮絶な暴力劇が繰り広げられるから、読んでるこっちが痛くなってきても目をそむけるのはもったにない。○○○はこの前にも顔の形が変わるほどボコボコにやられてるのに作者も人が悪いなぁ(苦笑)サイコキラーものとしてホラーファンも受け入れられるほどのものはあったと思っている。

だが本書はミステリの賞を受賞しているのであるから、そこにも注目するとこれもまたなかなか優れているのだ。斬新な真相をガツンと読ませるというよりも、既存の手法を畳み掛けてくるようなミステリ的手法。煽りすぎな感もあるが帯にある「どんでん返しにつぐどんでん返し」というのもあながち否定できないほど、真相が二転三転するから新人らしからぬ構成力とアイディアを認めざる終えないだろう。この多重構造は感嘆だ。最後の1行のセリフにはここまで繋がっていたのかという驚きと、読者感情をもやもやで終わらせない配慮に頭が下がる。

タイトルにあるのでこのカエル男がサイコキラーだというのは察知してると思うが、ここに犯罪心理や音楽療法などいろんな要素がからんでくるが一番重要視したいのはなんといっても刑法39条のくだりだろう。39条1項は「心神薄弱者ノ行為ハコレヲ罰セズ」だと思うが、これがいろんなところに絡んで社会的要素も入ってくるのだ。だが個人的に注目したのは作者がさらっと述べた意見。「心神喪失は責任能力がないというが、そういう者が手をかけるのは老人や女性や子供ばかりであり、それは弱者という区別がついているからである」というような箇所。こういう思考をしたことがなかったのだが、確かに的をえてると思う。弱者しか手にかけないということは、女子供が男の自分よりも力のない弱者ということを判断できているということだ。それが意識的でも無意識であっても、その判断は自分の中で下せているということは、即ち殺人行為の有無も自己で判断できているのではないか?ということなのだ。大人になる過程で動物などへの残虐行為で殺傷する感覚に慣れたり麻痺しても、それが判断力の喪失になるんだろうか?他に心神薄弱についての解釈はあるのだろうし責任能力の有無も難しい問題だろうが、作者の意見には一理あると意見として心に残った。

またほかにも作者は「人一人を殺めた人間が心神喪失という理由だけで刑罰を免れるのはやはり間違っている。病気が治ってから改めて裁判を受けそしてしかるべき処罰を受けるべきだ。裁判を受けるのは権利であり、罰を与えられて罪を償うのも実は義務ではなく権利なのだ。三十九条という法律は患者を救うのではなく、患者からその権利を奪うものではないか、と。そういう考え方もあるのです」というような文章も披露していて、注目すべきはホラーやミステリとしてだけでなく、こういう発言にも鋭いものがあるなとも思う。

もちろん完璧な作品ではなくて、疑問に思ってしまう点もいくつかある。それがまず暴動の部分。確かに猟奇的殺人で市民がおののくのは理解できるが、殺人事件で「次は自分かも?」と思うだけであのような暴動に至る群集心理が果たして働くのだろうか?曲がりなりにも忍耐強いと評される日本である。暴動という行為にリアリティがないのではなくて、作者の暴動への契機や要因の薄さゆえにリアリティがない。もし暴動まで繋げるならば、もっと大それた考えられない引き金を作るべきで、読者に伝わらない集団心理は脆弱だったのではないだろうか。また、ナツオのくだりもこれじゃあミスリードされない。もう使われすぎてて推測できちゃうので気をつけていただきたい(笑)

少しだけ難点を挙げたが総じてこの作品に対する僕の評価は高い。ミステリとしてはもちろんサイコキラーものとしても。またなんといっても作者の諸問題に対する率直な意見にも好感を持てたのだ。また~ドビュッシーや~ラフマニノフを書いた著者らしさも少しだけある。この作品を読む暁にはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第8番 『悲愴』。できることならアシュケナージの演奏のものをBGMにどうぞ。なんでかって?読めばわかるさ(笑)



4.2 なむなむ!



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.02 2011 【本:恐怖/戦慄】 comment12 trackback0

comment

かめのて
はじめまして、チルネコさん。
私も最近、これ(カエル男)読みました。
『さよなら、ドビュッシー』も、今読んでいるところです。
中山七里さん、なかなかの実力派ですよね。
2011.06.02 20:29
「ドビュッシー」とのCP(カップリング)応募がこの作品だったんですね!
ある意味真逆の作品を抱きあわせるところがスゴイなあ。
チルネコさんのレビューも鋭いですよね。熟読してしまいました。
読みたくなるけど、結構猟奇的? スプラッター?
うう……どうしよう(汗)
2011.06.02 20:44
チルネコ
>かめのてさん

初めましてこんばんわ。コメントありがとうございます^^
カエル男は新人らしからぬ作品でしたよねー。これ一作だけ既読ですが、仰るとおり実力はだと思います。クラシックも好きなのでドビュッシーもラフマニノフも気になってます。また記事拝読させてください^^
2011.06.02 21:51
チルネコ
>惺さん

そうのようです。どうやら改題されて出版されたようですよ^^ドビュッシーは未読なのですが、いろんな感想読んでたら真逆のような印象ですね(笑)スプラッターのようなむごたらしく殺める描写などはないので安心してください。でも、残酷でグロな描写はありますし、カエル君は猟奇的です^^;他にも猟奇的な人物もいますが・・・それが誰かは内緒です(笑)グロ系に踏ん切りついたら読むことおすすめします!
熟読していただけて嬉しいです~♪
2011.06.02 21:56
igaiga
カエル男、グロかったですね~。
ラストの1行に「おぉー!!」と納得というかスッキリしましたが、グロくてビックリしました(笑)
チルネコさんかなり高評価ですね~。
個人的にこの作家さんの本は読み続けていこうと思いますデス(^^)
2011.06.03 09:16
チルネコ
>igaigaさん

ですねー、もっとユーモアある感じかと思ったら、きつめのグロでしたね^^。あのフィニッシングストロークには驚きました。でもそうこなくっちゃですよね(笑)作品自体もオモチロかったんですが、今後に期待も込めてのなむなむ!度数でもあります^^僕も他の読んでゆきますー♪
2011.06.03 21:49
くう
お久しぶりです、くうです。

きましたか、カエル男。
igaigaさんのぶろぐだったかな? 紹介されてましたね。

タイトルと表紙からは想像もできない…な感じらしいですね。。。
2011.06.04 00:03
チルネコ
>くうさん

お久しぶりです!お元気にお過ごしでしょうか^^

タイトルや装丁とはちょっとギャップのある作品でした。
これは読まないと想像できません(笑)

igaigaさんとお知り合いでしたか^^くうさんブログやられてるんでしょうか?もしやられていたら遊びに行きたいので教えてくださいね♪
2011.06.04 22:00
くう
チルネコさん

ブログやろうと思ってるんですけど、思うだけでぜんぜんwww
私もけっこう本を読む部類なので、ブックレビューとかやりたいですね♪
2011.06.05 00:08
チルネコ
>くうさん

おぉ~ブログやる考えもお持ちなのですねっ!無理に進めると続かないと思うので強くは勧めませんが、くうさんのレビューも読んでみたいのでぜひぜひ^^開設の際には日参させていただきますので、教えてくださいね~♪
2011.06.05 12:42
semicolon?
この本面白そうですね。
多分、好きな話なので読んでみたくなりました。
2011.06.06 01:19
チルネコ
>semicolon?さん

初めましてこんばんわ。お仲間さんのブログで以前からお名前拝見しておりました^^今後ともどうぞよろしくお願いします。

本書はなかなかの力作だと思います。お薦めなので機会があればぜひ読んで見てください^^
2011.06.06 21:07

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