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村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

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誰しも人生を振り返ってみると、少なからず悔やみきれない何かを抱えていることと思う。「あの時こうしていれば…」「あのときの…何々しなければいけない」等々、後悔したまま今を生きていることもあるのではないでしょうか。少なくとも僕はそういったものを抱えているし、解決し難い過去も幾つかあったりもする(そんなものはない、と言い切れる人は自分の感情に誠実なのだろう)。本書の主人公である多崎つくるもそのような過去を抱えていて(それもパックリと痛々しい傷痕が残ったまんま)、数十年ぶりに問題と向き合い憑き物を落としていく。タイトルの「巡礼(ピルグリム)」は正にそれなのである。『色彩~』は作中の人物の

「記憶をどこかにうまく隠せたとしても、深いところにしっかり沈めたとしても、

 それがもたらした歴史を消すことはできない」

というセンテンスで始まり終わる、という小説なのです。

そのピルグリムで彼が何を知りたいのかというと、彼が高校時代の蜜月を過ごした四人の親友から唐突に絶縁勧告をされてしまう。その理由も何も聞かされないままに。その胸のつっかえを取りたいが為、彼が好意を抱く木本沙羅という人物の助言を得て4人に会いに行くのだが、なんと16年後の巡礼なのである。当時は自殺にまで思い至ったにもかかわらず。しかし彼はそういう人物、心優しく他人を尊重しすぎるが為ここまで何もできずに来てしまったのだろうが、僕はこの人物を好意的に受け止められた。というか共感してしまった(客観性に靄がかかるのであまりしたくないのだけども)。

個人的な読書に対する姿勢から僕は登場人物に自分を投影することがほとんどないし正直いって苦手である。だけどつくるくんは同年代であったり過去にがんじがらめになっていたりする点において、捨て置けないものを感じてしまったのだ。親友の四人の名前には色がついているのに、自分だけ無色だなんて思うのは確実にA型だろうなという気もすることだし。だから、彼が訣別の真相を知ったりピルグリムの際の再会には、サスペンスでもないのに手に汗握る自分がいた。随分と内省的で幾分感傷的であるにせよ。少なくとも稀少な読み方が体験できたというだけでも印象に残る小説となりました。喪失と再生のテーマの筆致、いささか気に入らない点を除かなくとも、及第点は悠然と越えてみせてくれていることだし。

ピルグリムとは直接関係はないけど最後まであかされない沙羅との仲は気になるところ。しかし読後考えてみると自分なりの答えが出ました。ハッピーエンドです。結ばれます。なぜなら、仮に結ばれないとすれば、彼の巡礼は全くの無へと帰してしまいます。自己を取り戻す為のピルグリムなのに、取り戻した矢先、「どんな事情があろうと手に入れるべき彼女」を失ってしまっては何のために存在する小説なのかわからないし、今度こそ確実に自殺にいたってしまうでしょう。そうなると、本当はどうしようもなく厭なホラーだった、というオチになっちゃいますよね。なによりつくるくんが不安を押さえきれずに夜中の四時に沙羅を電話で叩き起こした際、彼女は何と言ったか思い出してください。それはつくるくんが何を言わずとも沙羅が彼の心情を慮り、さらには彼女の心からの言葉のはずです。それはこうでした。

「安心してゆっくり眠りなさい」

とても優しく温もりのある子守唄。作中で鳴るリストの『巡礼の年』(個人的にはベルマンよりブレンデルの演奏の方が好みです。第一ベルマンの演奏を耳にしたことがないのだけれど)に劣らず心地よいメロディー。つくるくんはやっと手にしなきゃいけないものを手にいれたことでしょう。この小説も作者も素敵だと思うよ。




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.08 2016 【本:言語芸術】 comment0 trackback0

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